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*このインタビュー記事は、予定されていた媒体での掲載が諸事情により見送られたため、同媒体からご提供いただいたものです。
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飢餓や貧困、エイズ、政情不安といった、あまたの問題を抱えながらも、アフリカ諸国はいま、開発に向けて歩みを早めつつある。アフリカ開発支援のあり方を議論する国際会議「第5回アフリカ開発会議(TICAD V)」を来年6月に控え、日本の国際協力NGOが早くも動き出した。TICADのキープレーヤーたちを一堂に集めた市民社会シンポジウムを今月29日に主催する、国際協力NGOのネットワーク団体「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長に、TICAD Vのポイントと国際協力NGOの役割について聞いた。
―TICAD Vの開催まで1年3カ月超。この時期にあえて、「動け、動かせ TICAD V!」というシンポジウム(主催:動く→動かす、アフリカ日本協議会)を開く意義は何か。 「このシンポジウムは、TICAD Vに向けて、どんなアジェンダが俎上に載るのかを考える、いわばキックオフのイベントだ。国際協力NGOとして、アフリカ支援の重要性を社会に発信し、TICAD Vを盛り上げていきたい。アフリカ支援の大きなムーブメントを作り出すのが狙いだ。
リーマンショック後の世界不況が影響して、アフリカ諸国への援助は決して十分とはいえない状況が続いている。これによってアフリカではどんな問題が起きているのか。こうした現実を日本人にもっと知ってもらいたい」
―「TICAD」は援助業界以外の人にはあまり知られていない会議だが、シンポジウムに対する世間の関心はどうか。「研究者や民間企業の社員、学生、NGOの職員など、会場の定員である100人は、最初の告知から2週間でいっぱいになった。想像以上の反響があって驚いている」
―シンポジウムの内容は。 「プログラムは二部構成。第一部では、TICAD Vは何をめざすのかというテーマで、日本の外務省、アフリカ連合、在京アフリカ外交団、世界銀行、国連、国連開発計画(UNDP)の代表者にTICAD Vで打ち出したいビジョンについて語ってもらう。これらの共催機関の考え・思惑を共有するのも、今回のシンポジウムの重要な役割としてとらえている」
―第二部は。「第二部では、アフリカの開発支援にかかわる草の根の声として、アフリカと日本の市民社会の代表に話してもらう。
とりわけ興味深いのは、講演者の1人である、中古車のアフリカへの輸出と廃棄物からリサイクルした非鉄金属の国内販売を同時に手がける会社ナフケーン・アソシエイツ(埼玉県八潮市)のケネディ・フィンタン・ンナジ代表の経験だ。在日アフリカ人コミュニティーとして、先進国で磨いた技能を本国の発展にどう生かせるか。開発のなかで果たす移民の役割についても考えてみたい」
■TICAD VはポストMDGsの潮流を決める―TICAD Vではどんなアジェンダが目玉になりそうなのか。 「まだわからない。逆にいうと、メインアジェンダがまだ固まっていないからこそ、いろいろと自由に議論できる余地がある。国際協力NGOとしては、アフリカ支援の潮流を把握して、今秋をめどに、TICAD Vに向けた提言を出したい」
―経済成長は貧困削減に寄与するとの考えもあるが、アフリカの現場では実際どうか。 「アフリカへの民間投資は増えている。経済成長の芽は出てきたと思う。経済成長を支えるインフラへの投資も当然、TICAD Vの1つのアジェンダとなりうる。
ただ問題は、アフリカでは経済成長が貧困削減に結び付かないケースが多いことだ。アンゴラや赤道ギニアでは石油がどんどん生産され、GDPは何倍にも拡大したが、貧しさは緩和されていない。貧困を削減でき、“経済成長ありきの社会”から“持続可能な社会”へどう転換していくのか。国際協力NGOはここに強い関心がある」
―ミレニアム開発目標(MDGs)が2015年に期限を迎える。ポストMDGsの議論も大事だが。 「TICAD Vは、ポストMDGsの今後を占ううえでも重要な場となる。ポストMDGsについての議論はおそらく、今秋に東京で開かれる世銀・IMF年次総会、来年6月のTICAD Vを経て、方向性が固まる可能性が強い。
このほか、低炭素型経済成長にシフトできるのか、人口爆発と気候変動のなかで食料の安全保障はどうなるのか、などもアジェンダに入ってくるだろう」
■アフリカ54からの被災地義援金は16億円―日本の国際協力NGOネットワーク団体として動く→動かすは、これからTICAD Vまでどんな動きをするのか。 「今年5月にモロッコで、第4回TICAD IVフォローアップ閣僚会議が開かれる。最近のTICADフォローアップ会議では、アフリカ市民社会の代表がMDGsのセッションで必ずスピーチしている。日本の市民社会は、アフリカのNGOからの参加者をサポートしている。
動く→動かすにはTICADアドボカシーチームがある。TICAD Vに向けた提言をまとめるため、アフリカと日本のNGOが議論するワークショップを秋ごろに開催する予定だ。NGOとしてどんな提言を出せるのかを常に考えている」
―TICAD IVから現在までの4年間で、世界と日本の状況は大きく変わった。 「長期化する世界経済危機、そして中国やインドをはじめとする新興国の台頭。世界の経済・援助構造は大きく変化している。昨年3月には東日本大震災もあった。
これまでの日本のアフリカ援助は、正直、『貧しいアフリカを助ける』、という意味合いが強かったかもしれない。しかし時代の移り変わりで、間違いなく、アフリカ支援の意味・目的は変わってきているのではないか」
―具体的にはどういうことか。 「外務省の資料によると、東日本大震災に対して、アフリカ諸国(54カ国)は16億円を義援金として拠出した。内訳は、アルジェリア8億円、ナイジェリア4億円、その他4億円。被援助国のアフリカが先進国・日本に援助の手を差し伸べた現実を忘れてはならない。
参考までにアイドルグループのAKB48が被災地に寄付したのは12億円。『アフリカ54』のほうが上回っている。日本がアフリカを一方的に助ける時代は終焉し、相互扶助の時代に突入した。これがポスト震災時代のアフリカと日本のあり方ではないか」
―最近は、BOP(Base of the Pyramid)ビジネスへの注目度も高い。日本企業もアフリカ市場を視野に入れつつある。「日本市場が縮小していくなかで、日本企業にとっても海外進出は必至。経済成長著しいアフリカ市場の力を借りなければ、日本はもはや生き残れないというのもまた現実だろう。
アフリカが好きとか嫌いとかそういう次元の問題ではなく、連携なくして発展はできない。そうしたなかで日本とアフリカを結ぶ橋。それがTICADだ」