2014.9.5
8月24日(日)、東京都江東区の日本未来科学館にて、「トイレから始めるより良い世界―MDGs(ミレニアム開発目標)達成期限まで500日で何ができるのか」と題したシンポジウムを行いました。当日は60名以上の方々が参加し、さまざまな形でトイレにかかわる活動をしている5人のゲストを招き、1人15分という短い報告でしたが、非常に中身の詰まった貴重なお話を聞くことができました。
このイベントは、来年達成期限を迎える国連ミレニアム開発目標(MDGs)についてと、その達成に残された時間がもうわずかであることを一般の方々にも知っていただくために、トイレという日本でも注目を集めやすい物を通じて、暮らしの中のさまざまな課題を考えてみる場として開催しました。
まずは5人のゲスト講師のお話です。
加藤 篤さん
特定非営利活動法人日本トイレ研究所「日本のトイレ:現在・過去・未来」というテーマでお話いただきました。「トイレ好きの皆さまこんにちは」というあいさつでスタートしたお話は、日本の古代から近代の建築様式、人々の暮らし(農業や都市)や意識(自然観、不浄観、衛生思想まで)にもおよび、トイレと日本史を行きつ戻りつのスケールの大きなお話でした。加藤さんは最後に、トイレ問題は25億人の途上国の人々ばかりでなく、これからは先進国の高齢者なども含めた地球上のすべての人々に合わせた100億人のためのトイレ、「トイレの多様化」が必要ではないかと提起されていました。
森 裕介さん
公益社団法人日本国際民間協力会アフリカはマラウィでの環境衛生式トイレ(エコサントイレ)を設置するプロジェクトについてお話しいただきました。エコサントイレ導入は、“飢餓の起きない村づくり”を掲げた包括的な農村開発の一環として行われているものです。公衆衛生の改善・啓発、排せつ物の肥料化とその活用方法、トイレ建設の技術移転を地域に合わせて実施しているそうです。日本国際民間協力会では、マラウィ全国で1000基のエコサントイレを建設したそうです。ただ、排せつ物を肥料として使うことに対する現地の人々の抵抗感、トイレの適切なメンテナンス、建材確保などに苦労したそうです。しかしプロジェクト地での成果として、エコサントイレの使用による感染症の減少、尿は薄めて液肥として、便は6カ月間置いてたい肥として使用することによる農作物の収量増にもつながったそうです。
田中 雅子さん
上智大学テーマは、「女性にとってのトイレ」。経済や住環境から女性に対する偏見・差別まで、幅広い視点でお話しいただきました。「トイレは数[を造ること]が目標ではない」「誰のためのトイレか」という提起や、女性がトイレを使わなけばならない生理に関するお話もありました。5月28日は今年から生理衛生デーだそうです。また、女性がトイレで長い列に並ばなければいけないのは万国共通の悩みであること、国や場所によっては女性のトイレへのアクセスは男性からの嫌がらせや危険を感じながらになること、文化習慣の違いによって生理中の女性を「穢(けが)れ」とみなし女性の行動の自由が奪われること、トイレの不備が女児を学校から遠ざけていることなどのお話もありました。
吉森 悠さん
特定非営利活動法人シェア=国際健康協力市民の会以前は栄養士として働いていた吉森さんには、「トイレと子どもたち」というテーマで、東ティモールでの活動についてお話いただきました。世界では5歳未満児の死因(新生児期の問題を除く)の第2位は下痢で、特に東ティモールでは子どもの栄養不良の割合が高く、下痢によって死亡しやすくなるそうです。学校にトイレはあっても、例えば汚いという理由で学校に来なくなってしまう児童がいるとのことでした。シェア自体はトイレ建設を行っていませんが、国民の7割が地方に住み、地方の人々でトイレを使える人が4割弱しかいない東ティモールの状況に合わせ活動をしているとのことでした。例えばコミュニティでは、石鹸を使った手洗いの励行、少ない水でも衛生的に手を洗える簡易手洗い装置の普及、家庭で簡単に作れる経口補水液(下痢の時の水分補給)の作り方を歌で広めるなどの活動を行い、学校では上級生から下級生に手洗い教える活動などをしているそうです。学校での保健教育は、子どもたちが学校で習ったことを家庭に持ち帰って広めてくれるので重要な活動だそうです。
高橋 郁さん
特定非営利活動法人ウォーターエイドジャパン最後に、高橋さんからは「25億人のトイレがない人々の未来」というお話をしていただきました。この「トイレがない」というのは、開発途上国で「改善されたトイレ」(排せつ物が人間と接触しないようになっているトイレ)を使っていないことを指します。最近は少しずつ改善されたトイレを使える人が増えてきたそうですが、地域によっては状況が変わらないところもあり、なんとサハラ砂漠以南のアフリカ諸国では、現在の取り組みのままでは150年経ってもミレニアム開発目標達成は難しいそうです。また、ミレニアム開発目標の次の目標のドラフトにも、今のところ「すべての人が、水と衛生施設を利用し、かつ水と衛生施設の持続可能な管理を行う」ようになるという目標が入っているそうです。グローバルなお話の一方で、屋外排せつをゼロにするためにコミュニティで行うCLTSという意識向上活動や、障害者などぜい弱な立場に置かれた人々に配慮したトイレの例なども紹介していただきました。
講師の皆さんのお話の後、質疑応答とワークショップが行われ、講師と参加者の間だけでなく、参加者同士でも活発なやり取りが行われました。
大変に幅広く、そして奥が深いトイレの話で熱く盛り上がった3時間。あっという間でした。トイレは単に排せつする場所と認識されてはおらず、汚れや穢(けが)れの対象とみなす文化習慣を持つ地域があるため、トイレのことを話題にするには羞恥心があったりタブーに結びつくことがあります。講師の加藤さんやシンポジウム参加者の方々がおっしゃっていたことですが、「子どもはうんちの話が大好き」とのこと。子どものようにとはいきませんが、トイレや排せつに関する話を気にせず口にして、快適で何より安全なトイレを地球村に増やしたいと感じました。
(キャンペーンアシスタント 斉藤)

会場の様子・活発な意見が交わされました。 加藤さん

森さん 田中さん

吉森さん 高橋さん
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